僕達の願い 第14話


「では、ブリタニアの皇子と皇女は此方で預かる」
「ええ、お任せします。全く、ブリタニアの皇帝は何を考えているのでしょうな。あのような怪我人をよこすなど」
「下手に元気があり、口達者な若造が来ても手を焼くだけよ。衰弱した皇子と、それに 縋る皇女。怪我の事さえなければ静かで扱いやすい。こうして医者を用意すると言えば、文句も言わずに付いてくるのだからな」
「ふむ。たしかにそうですな」
「ただ、下手に護衛を多く連れて行くと、後々面倒になりかねん。常に傍にいるあの青髪の男以外は要らぬだろう」
「有能な医者を付けるという、友好的な態度を此方が取るのですから、文句は言わせません。しかしスザクも一緒にと言うのは・・・・」
「相手を油断させるためでもあるが、あのブリタニアの兄妹が来てからスザクにも変化が見られる。これもまた今しか出来ぬ経験。スザク、お主はどう思う」

狸と狐が話をしている様子を黙って聞いていたが、幼い頃には解らなかった父親の傀儡ぶりに内心呆れていた。
だが、今はこういう人で良かったと思ってしまう。
あの時代では父を殺し、この時代では内心父をあざ笑う。
酷い息子だなと、心の中で自嘲した。

「ブリタニアの皇子は僕と同じ年です。怪我をし、自分の世話すらろくに出来ない無力なお荷物とはいえ、障害を持ちながらも皇位継承権は17とそれなりの位置を持っている相手です。父さんがブリタニアと交渉する上で利用できるかもしれませんし、恩を売っておけば後々役に立つかもしれません。父さん、任せて下さい。側にいてあの兄妹の信頼を必ず得てみせます」

あくまでも自身ではなく父のために。
そう告げると、ゲンブは息子の発言に驚き、言葉を無くした。
ルルーシュの信頼を得たいのは本心だから、その言葉に思わず力が籠もったことで信憑性が増したのか、ゲンブは口元に笑みを乗せ頷いた。

「たしかに、この短い間にだいぶ成長したようだ」
「随分と頭が回るようになったようだな、スザク」

桐原はその顔に悪い笑みを乗せ、それでいいと言いたげに頷いた。
あのブリタニア兄妹への愛情と忠誠を悟らせてはいけない。
あくまでもあの二人は手駒なのだと、ゲンブに認識させることが大事なのだ。

「あの兄の方はとても賢いと聞きました。同じ年である私が彼に劣ると思われれば、日本はブリタニアより格下だと思われかねない。彼らと上下関係を築くのであれば、彼らの上に立ちたいですからね。絶対にブリキに負けたくはありません」

子供らしさを出すため、ふてくされたような顔でスザクはそう告げると、桐原は可笑しそうに笑った。
ゲンブはたしかにそうだと、息子の意見に納得し、あのブリタニアの皇族とともに居ることでブリタニアに対する敵対心と、同年齢の皇子に対する対抗心が刺激され、乱暴者で我儘な子供だったスザクが成長するのであれば、利用しない手はないと納得したようだった。

「いいでしょう。ではそのように事を運びましょう」

あっさりと了承の意を示したゲンブの気が変わらないうちにと、翌日には荷物をまとめ、桐原の受け入れ準備が整うとすぐにルルーシュとナナリー、そしてジェレミアとラクシャータをつれ、スザクは桐原の用意した別邸へ移動した。
桐原が用意した屋敷はしっかりとセキュリティーも施された近代的な建物で、桐原の腹心とも言える部下たちが護衛についた。
着いてからわかったことだが、この建物の地下にはKMF開発の研究施設があり、元々ラクシャータ達研究員が使用していた場所なのだという。
KMFの研究と治療を行うのだから、研究施設に連れてきたのだという言葉に納得し、確かにブリタニアからも日本からも隠して研究をしているのだから、何処よりもセキュリティが高い事に頷けた。
念には念を入れてゲンブにもこの場所は知らせず、当然KMFを制作していることも秘匿されていた。現在知っているのは桐原と皇のみ。
此処へ移ってきてから1週間後、藤堂も桐原に緊急の案件で呼ばれたという流れで、四聖剣と共にこの屋敷へ移ってきた。
嘗て同じ黒の騎士団に所属していた藤堂と四聖剣が来たことで、ラクシャータは自分の記憶にあるデータを活かせると大喜びし、ジェレミアとスザクのデータも含め5人のデータを集めつつ、専用機の製作を始めると告げた。
設計図も理論も全て頭の中にある。
基本的な実験は全て飛ばし、あの当時作成していたものを再現するつもりだった。
ルルーシュの容態も、ラクシャータに見せ始めてから見る見ると改善し、膿んでいた傷口も塞がった。不思議だというナナリーが理由を聞くと、飲んできた薬には混ぜ物がかなり入っていて、刃物に付着していた薬物だけではなく、それもまたルルーシュの回復を遅らせる原因だったと言うのだ。
考えてみればブリタニアが用意した薬だ。
V.V.の手が入っていた可能性も高い。
ルルーシュを苦しめるため、生かさず殺さずの調合をしていた可能性があるのだ。
その事には腹が立つが、ラクシャータの治療を初めて1ヶ月で、ルルーシュは車椅子に乗った状態ではあるが散歩に出られるまでに回復していた。
微熱が続いていた体もようやく落ち着いたから、少しは外の空気を吸うようにと、天気のいい日は30分ほど外にでるようになったのだ。
今日も昼に近い時間、暖かな日差しの中、スザクはルルーシュの車椅子を押し、ゆっくりと敷地内を散歩していた。直射日光は体に悪いため、ナナリーが車椅子と並んで歩き、自分とルルーシュが日に当たらないようにと日傘を差していた。
ジェレミアは辺りを警戒し、少し離れてついてきている。

「ルルーシュ、両腕のリハビリ、来週から始めるんだって?」
「ああ。傷が大分良くなったからと、ようやく許可がもらえた」
「でもお兄様、無理をしないでくださいね」
「わかっているよ、ナナリー。無理をしてドクターストップがかかれば、余計に時間がかかるからね。でも、できるだけ早く動かせるようにはする」

なにせ、自力で何もできないルルーシュの世話を、幼い体のスザクが懸命に行っているのだ。ジェレミアとナナリーも、ルルーシュの世話の為かなりの時間をルルーシュに費やしている。
足手まとい。まさに自分の為にある言葉だと、いつも申し訳ない気持ちで押しつぶされそうになっていた。自分のことなど気にせず、彼らにはブリタニアとの戦いに集中して欲しい。だからこそ、無理はせず、最短の時間で回復させてみせる。

「・・・無理はダメだからね」

まるでこちらの思考を読んだかのようなタイミングで、スザクにまで言われてしまい、ルルーシュは苦笑した。二人だけではない、ラクシャータや藤堂たちにまで言われるのだから、そんなに前は無理をしているように見えたのだろうか。
何も無理などしていないのに。

「別に無理などしていないさ。そうだろう、C.C.?」

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